ドイツ通信・おとぎの国へようこそ   くるみ割り人形の世界

新型コロナの猛威のなかでも、クリスマスがちゃくちゃくと近付いてきました。

ドイツで典型的なクリスマスシーズンのシンボルはいろいろありますが、「くるみ割り人形」もその一つ。

今日は皆さんと一緒に、その果てしないファンタジーの世界をのぞいてみたいと思います。

「くるみ割り人形」と聞くと、まずチャイコフスキー作曲のバレエ作品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。原作はドイツの作家ホフマンによるメルヘンで、少女マリーがクリスマスにプレゼントされたくるみ割り人形を巡って夢の人形の世界を体験するファンタジーストーリーです。

この童話でも語られている通り、昔からドイツのクリスマスとくるみ割り人形には深い繋がりがあります。

今でもクリスマスシーズンになると、ドイツの多くの家庭では地下倉庫からくるみ割り人形を出してきて、ツリーやクリッペ(3Dのキリスト降誕図)と一緒に室内に飾ります。直立した姿の木製の人形で、口に殻付きのクルミをかませて背中のレバーを動かすとクルミが割れる仕組みですが、今では実際にくるみを割るのに使われることは殆どなく、もっぱら装飾品としてその形が受け継がれています。

山間部の伝統工芸品として今でも多く作られており、例えばドイツ東部とチェコの国境周辺エルツ産地の特産品として有名です。兵隊や王様などおとぎ話の登場人物の衣装を身につけたものが伝統的ですが、ほかに炭鉱夫や警官など、衣装でそれとわかる人形もよく見かけます。

またレーダーホーゼ(革ズボン)にたっぷりの口ひげというスタイルの「バイエルン人」や、白シャツに黒ズボンという出で立ちで楽器を演奏する「エルツ山地の楽士」など、地域の特色を匠に捉えた作品も多くあります。同じく物語世界の住民でも、「一癖あるキャラ」として知られる「ピノキオ」や「ゾンビ」など、ちょっと異質な顔触れも。ほかにもサッカー選手や芸能人などメディアによく登場する有名人をモデルにしたものや、一見してそれとわかる出で立ちの政治家が何やら真面目そうに誰かと議論している諷刺的な作品、また「PCハッカー」を彷彿とさせる現代ならではのフィギュアも。エルツ産地には木製工芸品を主題とした博物館が多数あり、くるみ割り人形のほか木製玩具・煙出し人形・クリスマスのオーナメントなど、熟練したアーティストによる作品を、古いものから新時代のものまで心ゆくまで堪能できます。また単一作品だけでなく、雪降りしきる冬のチャペルを取り巻く風景や、エンジェル・ニコラウス(ドイツ版サンタクロース)・キャンドルなどクリスマスシーンを育んだゴージャスなピラミッド、そして細かい花びらの1枚1枚まで精密に再現された花売り娘の様子など、思わず目を見張るような、またうっとりするような芸術作品の集大成とも言えるディスプレイもたくさん展示されていて、ついつい時間が経つのを忘れてファンタジーの世界へと逃避してしまいます。くるみ割り人形だけを主題とした専門の博物館もあります。

ここには世界で最大と最小のくるみ割り人形をはじめ、各国から集められたくるみ割り人形が所狭しと陳列されています。町の人々や車掌さん、マジシャンなど、その多種多様な内容には驚くばかりです。

博物館の展示品は殆どがショーケースに収められていて、直接触れることができませんし、名産地として名高い町の有名店ではお土産もハイコストで衝動買いもなかなかチャレンジ。

でも近隣の小さな町の個人商店なら、素敵なくるみ割り人形がお手頃価格でゲットできますし、お店の人もフレンドリー。世間話のついでにご当地のおすすめハーブシュナップス(アルコール度数の高い蒸留酒)が飲めるお店なんかも教えてくれます。私が訪れたのは夏場でしたが、エルツ地方はクリスマスが美しく盛大なことでも知られています。

今年はバイエルン同様、感染拡大が深刻なドイツ東部でもクリスマス市は中止になったようですが、いつか冬のエルツで本場の木製工芸品の世界を満喫してみたいです。

今年も私のブログをお読み頂きありがとうございました。

コロナで不安な日々のなかでも、不安な日々だからこそ、おとぎの国にもちょっと助けてもらいつつ、心が枯渇しないように日々を過ごしていきたいですね。

では皆様、メリークリスマス、そして良い年末年始をお迎えください。